AT24 判断基準が自分にある危険性

投稿者: | 2020年2月7日

前回ジェレミーさんは「ダンスが上手になりたい人なら知っておくべき脳の基礎知識があります。それは、脳の使い方が筋肉やムーブメントを司るということです」と話し、自分に対する4つの問いかけをしてきました。

 

4つの問いとは ―― 

①脳はどのように筋肉に働きかけていますか?
②意図した動きをしたかどうか、どうしたら分かりますか?
③その時々の自分の空間をどうやって認識できますか?
④必要最低限の緊張しか使わなかつたことが、どうやって分かりますか?

前回は①を見ましたので、今回は②と③を見て行きましょう。

 

 

私とダンスとアレクサンダー・テクニークと
AT24 判断基準が自分にある危険性


📌BODY CHANCE – アレクサンダー・テクニーク


ダンス――遥かにうまくなるための秘訣(Dance Wing 56,6回目記事より)


 

②意図した動きをしたかどうか、どうやつたら分かりますか?

あなたの頭の中には莫大なボディ・イメージがあり、別名「ボディ・マップ」と呼ばれています。頭の動きのためのマップ、手のためのマップ、ヒップや膝のためのマップもあれば、足のための別のマップもあります。そうしたボディ・マップは脳の異なる場所にあり、何かの動きを思うと、それに関連したマップが集められてひとつの概念を構築し、それが筋肉に動くよう働きかけます。するとボディ・スキーマはその反応を折り返し報告します。

 

このように、ボディ・スキーマとボディ・イメージの間には、動きを調整するためのシステムがあります。従って、ボディ・イメージの期待と同じ情報をボディ・スキーマがあなたに送り返すと、自分が意図した通りの動きをしたとわかるのです。

 

しかし、これには危険が潜んでいます。なぜなら、自分を判断する基準が自分自身だからです。自然の計画では、あなたが歪んだボディ・イメージを持っていると(例えば、「私はダンスが下手だ」とか、「私は彼女よりうまい」のような)、そのイメージに適したボディ・スキーマを求めるのですが、あなたの中にあるシステムは下手に踊る方法を全く知らないので、あなたがそう考える限り、筋肉の緊張を増やしてしまいます。これは本当の話です。

 

「あなたは体が思ったように動いてくれないといつも文句を言いますが、体はあなたの指示通りに動いているのですよ」と私の先生はよく言っていました。

 

それでも、あなたのシステムは何かが変だと伝えようとします。「痛覚」(「AT23 失われた第6感」参照)と書きましたが、非効率な動きをすると、個々の細胞の中にある化学天秤に異常が起こり、それが傷みや苦痛、あるいは、もう嫌だという類の報告を体に伝えます。そこで、もう少し楽になりたいと、体を緩めたり、まるで違うことを始めたりするのですが、皆さんは、更に緊張を増すことをしているのです。

 

緊張を減らすことで変わる感覚は、緊張を増やして変わるときとはまるで違いますので、奇妙な感覚を受け入れなければなりません。これをやってみましょう。

 

 

どのくらい変な感じまでOK?

ウイング52号でも実験しましたが(このブログの「AT14 当てにならない感覚」参照)、立って、目を閉じて、両足を少し開き、足の内側が平行になるようにしてください。両足が触れあってはいけません。

 

平行になったと思ったら目を開けて足を見てみましょう。どうですか? 目を閉じていたときのイメージと同じでしたか? 平行でなかった人は、ボディ・イメージがその形を好んでいるからなのですが、実は、人の体はそのように設計されているので、それは正しいことなのです。でもこれで、感覚の違いということがお分かりになったと思います。

 

このボディ・イメージが動きを左右するという発見は、今、科学者によって減量に応用されています。ダイエットした人がその後の体重を保てない原因は、以前のボディ・イメージが残っているからに違いないとの仮説が出ています。痩せたのに、動き方はまだ太っていたときのまま。つまり、あなたのボディ・イメージが痩せたという新しい現実を掌握するまで、古い考え、古い経験、古い信念のままの動きをしてしまうのです。

 

では、あなたがダンスを通して築き上げてきた考えや経験などが、もはやあなたのダンスに使えないとなったらどうします? そうです、あの忘れ去られた第6感がコンスタントに体に出し続けている生の情報を使い、そして、古いボディ・イメージを喜んで手放すのです。

 

ダンスウイング(スタジオひまわり)とボディ・チャンス共催ワークショップのひとこま(2010年3月)

 

③その時々の自分の空間をどうやって認識できますか?

ボディ・スキーマと他の5感(空間の中における自分の感覚を作り、世の中での自分の動きを感じ取る)が結合すると、この世界で自分がどのように動いているかを感じとる基礎ができます。スタニスラフスキー( 20世紀初期の有名な演出家)はしばしば生徒にこう話していました。

 

「理解するとは、感じることです」 と。

 

有難いことにボディ・スキーマそのものに悪いことはなく、あなたに供給される生の情報に正確、精密であり続けています。問題が起こるのは、突然として理不尽なボディ・イメージが湧き上がり、その情報の感じ取り方を強制されてしまうときです。ボディ・イメージが特定の感じ方を求め、それがあなたの感じ方と違う場合、ボディ・イメージはあなたの期待するイメージと合致するまで動きの変更を指示し続けます。これが、第5の原理、「動きは古い感覚に支配され、新しい考えで動くことは稀である」です。

 

そこで、新しいボディ・イメージの必要性が出てきます。ダンススタジオに鏡が貼り巡らされているのはその為です。

 

以前、主要な動きは「内なるダンス」であることをお伝えしました。軸状の動きのことです。訓練を受けていない人には鏡を見てもそれがなかなか見えてきませんが、ボディ・スキーマの変化を直接的に経験すると見えるようになってきます。ボディ・チャンスの先生達があなたの動きを修正するのに手を使うのは、その為です。

 

「私達が教えているものは感覚です」とアレクサンダーは書いていますが、感覚はボディ・スキーマの新しい組織です。何かを学んだとき、ボディ・スキーマは次々と、より自然の設計に調和した新しいボディ・イメージを作り出します。

(「ダンス――遥かに上手くなるための秘訣」最終記事から)

 

 

 

 

この書き出しをしながら太っていた野球選手の話を思い出しました。この選手は完全に元の体型を取り戻したのですが、秘訣はトレーナーがしたアドバイスにありました。痩せていた頃の全身写真を壁に貼ったのです。今回のアレテクの話に従えば この選手はかつての体型を常時目にすることで新しいボディ・イメージを植えつけたことになるのでしょうね。

 

驚いた話
Dance Wing が発売されると送られてくる「読者プレゼントコーナー」の応募はがきには、この連載記事が良かったと書いて下さる人が実に多い中、
  「いったい誰がこれを企画したの?」
という声や、
「企画した人に会いたい」
という声まで届けられ、本当に驚かされました。原稿が素晴らしかったから ― それしかありませんが…。

 

この最終回原稿の打ち合わせでボディ・チャンスのスタジオを訪れた時、スタッフの方が、「実はダンスウイングの記事を見て、岐阜県から駆けつけてきて下さったカップルがいるのです!」と教えて下さいました。これには驚くやら、うれしいやら!!

 

また、このようなこともありました。それは56号の仕事をワサワサと焦りながらしている時でした。私の元に一本の電話が。

 

電話の向こうの人は、どうやら社交ダンスに足を突っ込んだばかりという感じの男性でしたが、「アレクサンダー・テクニークを馬にも応用できないか」と考えているようでした。これには驚きました! 

 

少し突っ込んでお話しをお聞きすると、どうやら馬の調教をしている方のようで、その関係で定期的にヨーロッパにも勉強に行っているそうです。他にもいろいろお話しをしましたが、「馬にも使えないでしょうか?」に対して、私はこんなことを考えていました。

 

例えばアレクサンダー・テクニークを習っている人でチェロを弾く人がいます。相手が生き物でなくても、アレクサンダー・テクニークは使えます。ましてや馬は人の考えを察するでしょうから、このテクニークは間違いなく使えるとのではないか…。

 

そこで、「きっと、ウマくいきますよ!」と答えたとか、答えなかったとか(笑)。

 

(つづく)

 

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