MBD 12.さらに高度な技術

投稿者: | 2020年2月5日

ビクター・シルベスターのモダン・ボールルーム・ダンシングから「12.さらに高度な技術」をお届けします。

第二章 実習
12.さらに高度な技術
More Advanced Technique

 

 

この本の9―11章は基本的にボールルーム・ダンスを始めて習う人を対象としています。初心者はそこに書かれている基本の技術やフィガーを学ぶことにより、少しの練習だけで自信を持ち、楽しく踊れるようになるでしょう。しかし、ダンスの経験を積むにつれ、さらに先に進みたいと願う事は自然の成り行きです。他の人たちが使う自分の知らないフィガーやフォックストロット、クイックステップ、ヴィニーズ・ワルツ、ラテン・アメリカンといった種目の踊りが魅力一杯に見えることでしょう。

まだ経験の浅い人たちが今後上達していくには、これから先に書かれている事が重要になってきます。一つ一つの種目を順番に紹介し、新しい技術、例えば、フットワーク、ボディ・スウェイ、あるいはコントラリー・ボディ・ムーブメント(CBMと略します)など、初心者が気にしなくて良いような技術が出てきますので、そうした事項を練習していくと、きっと達成感が得られることでしょう。

 

● フィガーをつなげる方法

幾つかのフィガーを覚えたら、そうしたフィガーの組み合わせ方法を考える時がきました。つまり、フロアの上をつなぎ合わせたフィガーで進んでいくことです。動きは途切れる事なく、流れるように動き続けなければなりません。正しいつなぎ方や組み合わせ方ができるようになるには経験と練習量が必要ですが、男性は初めにどのステップとどのステップが繋がるかを覚えなければなりません。繋げるステップは、今のフィガーを終えて自分が向いている方向、パートナーとの形、また、どちらの足に体重は乗っているかによって変わります。

本書ではフィガーの説明の後に、最も自然に繋げられるフィガーを載せています。それ以外のフィガーに繋げてみるのも良いでしょうが、最初は、一般に誰もが使っているものから始めるのがベストです。

 

 

● フットワーク
フットワークとは、1歩(あるいはその一部)において、足のどの部分がフロアにつくかを示し、ライズ&フォールに関係します。

  • H (Heel)  ヒール、かかと 《注》Hと単独で出てくる場合、足は、ウォークのとき同様にヒールからついてフラット(足全体が床につく)になると言う意味です。
  • T (Toe)  トウ、つまさき
  • B (Ball)  ボール *親指の付け根部分
  • FのIE (Inside Edge of Foot)  足のインサイド・エッジ *足裏の内側部分
  • TのIE (Inside Edge of Toe)  トウのインサイド・エッジ *つまさきの内側部分
  • BのIE (Inside Edge of Ball)  ボールのインサイド・エッジ  *ボールの内側部分
  • WH (Whole Foot)  ホール・フット *足裏全体

 

フットワーク例: クオーター・ターンズ(クイックステップ、男性)の場合

フットワーク  ( → 意味)

1. HT  ( → ヒールからトウにライズ)
2. T  ( → トウ)

3. T  ( → トウ)
4. TH  ( → トウからヒールにロアー)

5. TH ( → トウからヒールにロアー)
6. H ( → ヒール(続いてフラットに))

7. H(右足)左足のトウで床をプレス ( → 左足のトウで床をプレスしながら右足ヒールを使う)
8. H  ( → ヒール(続いてフラットに))

 

 

● コントラリー・ボディ・ムーブメント(以下CBMと略します)

上級レベルを目指す人は必ずコントラリー・ボディ・ムーブメントの理論を押さえ、練習をしなければなりません。これは初心者に教えることではありません。初心者にはバランスとかムーブメントなど、その前に覚えるべきことがあります。

ボールルーム・ダンスにおけるCBMとは、腰から上の身体をわずかに回転させることにより、反対側の腰と肩が動いて行く脚の方へ回転を起こす事です。例を挙げると、右足前進で左の肩と腰が前方へわずかに回転を起こすことです。CBMには次の4通りがあります。

 

 ・左腰と肩を前方に回転させながら右足前進
 ・右腰と肩を前方に回転させながら左足前進
 ・左腰と肩を後方に回転させながら右足後退
 ・右腰と肩を後方に回転させながら左足後退

 

CBMはむやみにかけるものではなく、自然な、無理のない形でかかる類のものです。CBMがかかるフィガーには、その旨が記載してあります。とはいえ、ムービング・ダンスの回転を伴うフィガーではほとんどの場合CBMがかかります。覚えておいて欲しいのは、ステップしようとするときに反対側の腰と肩が回転を起こすのであり、ステップをしてからではありません。そして、腰から上のボディすべてを少しだけ回転させることです。共通して見られる誤りは腰を折り、肩だけ回転させることです。

後退のステップではほんの少し足を内側に向けるとCBMがかかり易くなります。実際にはその足は、あなたが向いていく方向に向いているのですが、内側に向けようと思うことでCBMが楽になるのです。後退で足を外に向けたくなるのは自然な傾向ですが、それをすると、腰が肩と一緒に回転しようとする動きを妨げてしまいますので、正すべきでしょう。

CBMにはもう一つ、コントラリー・ボディ・ムーブメント・ポジション(以下CBMPと略します)と呼ばれる形があります。これは、自分の体を横切るように足を出すことで、CBMPにステップするといいます。例えば、上体を正面に向けたまま右足が左足を横切るように前方にステップすると、右足を真っ直ぐに出し、同時に、左腰と肩を前方に回転させたのと同じ効果が得られるのが分かるでしょう。

この動きはすべての外側に出るステップで使われます。つまり、あなたがパートナーの外側に出て行くときも、パートナーがあなたの外側に出てくるときもです。CBMPはタンゴで、特にプロムナード・ポジションで使われますし、他のボールルーム・ダンス種目でもしばしば使われます。
CBMとCBMPの違いはとても僅かなため、ときとして両方の違いを区別するのは難しいことがあります。

 

 

● ボディ・スウェイ
回転をともなうほとんどのフィガーには、僅かなボディ・スウェイが使われます。スウェイする方向は常に回転の内側に対してです。回転以外のところにもスウェイがかかることがあります。

ボールルーム・ダンスでは常に反時計回りに踊っていきます。回転には基本的にたった二つの方法しかなく、それはナチュラル(右回り)とリバース(左回り)です。したがって、ナチュラル・ターンではいつでもスウェイが舞踏場の中央側に、リバース・ターンではスウェイが舞踏場の外側(壁)に向けてかかる事が分かるでしょう。次のように考えると分かりやすいかも知れません。

 

クイックステップとフォックストロットでは、

・右足がスロー・カウントで前進か後退するとき、続く2歩のクイック・カウントのステップで右スウェイがかかります。
・左足がスロー・カウントで前進か後退するとき、続く2歩のクイック・カウントのステップで左スウェイがかかります。

 

ワルツでは、

・カウント1で右足が前進か後退するとき、続く2歩目と3歩目で右スウェイがかかります。
・カウント1で左足が前進か後退するとき、続く2歩目と3歩目で左スウェイがかかります。

 

 

例外もありますが、上に書いたことは一般的なルールとして適用する事ができます。こうしたダンスでのスウェイは足から上を使いますので、あなたの身体全部(両脚、両腰、両肩に頭も)使って回転の中心に傾斜をつけますから、このわずかなスウェイをかけたときボディを貫く直線を描いたとすると、あなたの身体は真二つに等分されなければなりません。

スウェイはほんの少しだけと言う事を忘れないで下さい。もしどっちの方向へスウェイをかけるべきか疑問が出た場合、誰かきちんと説明をしてくれるプロの人を捕まえるまで、すべてを忘れておきましょう。経験を重ねていくに従い自然に対応できるようになるでしょう。

タンゴの基本フィガーでは、ボディ・スウェイは全く使われません。

 

(この項おわり)


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「モダン・ボールルーム・ダンシング」
(ビクター・シルベスター著/神元誠・久子翻訳/白夜書房)
2005年12月出版
原書名:Modern Ballroom Dancing (Victor Silvester)

 

 

世界で60万部以上の販売実績を誇る、ボールルーム・ダンス本のトップセラー。1922年の第1回世界プロフェッショナル・ボールルーム・ダンス選手権のチャンピオン、ビクター・シルベスターがダンスの歴史を遡り、スタンダード・ダンスの起源と発達を語る。実習編では、初心者にも適した踊りから上級者向けまで詳しく解説。

 

ビクター・シルベスターは楽団を率いていたことでも有名ですし、同様に、ストリクト・テンポを確立した人としても名が知れ渡っています。私がダンスを始めた時にも、イギリスからビクター・シルベスター・グランド・オーケストラのLPを何枚も買い求めていましたので、そのように著名で偉大な人が書かれた本の翻訳をさせて頂く機会を得たことは、この上なく光栄でした。

 

神元誠・久子